落合博満の「オレ竜ドラゴンズ」を思う

よしのは熱狂的ドラゴンズファンだ。誰も異論はあるまい。

 

長崎は時津に生まれ、そこで育ったよしのが(地理的に縁もゆかりもない)ドラゴンズファンになった理由は「遺伝」以外の言葉で説明のしようもない。亡くなった祖父が「お前のひいおじいちゃんは名古屋の人だったんだぞ」と言った直後にボケてしまったので根拠としては少々危ういが、ともかくよしのは祖父の代から続くドラゴンズファンなのである。

祖父が天知監督の日本一をどの程度記憶しているか、今となっては知る由もないが、よしのの父がまだ少年だった時、ドラゴンズは(にっくき)讀賣巨人軍のV10を阻止したのだと言っていた。

よしのがもし我が子にドラゴンズ愛を語る時、真っ先に名前が挙がるのは落合博満監督だろう。初めて目にしたのが7年連続でBクラスに沈む、今や斜陽の?球団になってしまったドラゴンズであったならよしのはここまでのファンにはなっていなかっただろう(よしのは来年以降ドラゴンズの黄金期が来るであろうことを信じてやまないのであるけれど)。

 

父がV10を阻止したドラゴンズに手に汗握ったように、よしのは落合監督の下で、セ・リーグでも「不気味な」異彩を放っていたドラゴンズを、まず好きになったのだ。

よしのが物心ついて初めて目にしたドラゴンズの監督は山田久志監督だった。V9時代のエース、そしてドラゴンズの誇る名監督、星野仙一はなぜか阪神の監督をしていた。岩瀬はまだ中継ぎエースだった。抑えは大塚、谷繁はまだ背番号7、立浪が中軸を打っていた。Kevin Millarは来なかった。

 

よしの少年が古本屋で買ってもらった、今となっては40年くらい前のプロ野球の本には、当時の名選手がカラー写真で載っていた。讀賣の江川、西武の東尾、広島の北別府、阪神の田淵、阪急の福本、南海の門田・・・よしのはこの本のおかげで若干昭和のプロ野球に詳しい。

中日の選手で唯一載っていたのが他ならぬ落合博満選手であった(門田の名前は落合をパクっとると悪態をついていた)。したがって幼稚園児~小学校低学年のよしのの知っているドラゴンズOBは落合と星野、精々谷沢か高木守道くらいなもんである。

その一人(しかもカラー写真で見た!)落合が、監督になるというのである。当然まだかわいかったあの頃のよしのは「この人知ってる!」となったのだ。彼が開幕投手に川崎憲二郎を起用するなどと「オレ竜」を貫くようなややこしい人であることも知らず・・・

 

落合監督はいきなり優勝した。その次の年には横浜からタイロン・ウッズが来た。あとはここにいちいち書くほどでもない。落合竜は常勝軍団になった。

 

「1番荒木が塁に出て

 2番井端がヒットエンドラン

 3番立浪タイムリ

 4番ウッズがホームラン

 いいぞ!頑張れ!ドラゴンズ

 燃えよドラゴンズ!!」

よしのがCDで買った燃えよドラゴンズ2005ver.の一節である。今思えばあの頃(計算上は7歳である)のよしのはドラゴンズが強いのは当たり前だと思っていた。広島球場で川上憲伸に握手してもらったのも思えばこの頃だ。ドラゴンズは強い。カープベイスターズは眼中になく、とにかくジャイアンツは殺すほど憎かったし、タイガースは生意気なチームだと思っていた(スワローズは・・・嫌いではなかった)。

 

ある年、ドラゴンズは日本一になった。日本一を決めた試合で、先発の山井大介(2020年現在なんと彼は現役である!)は8回まで完全試合を演じて見せた。その日の相手先発はあのダルビッシュ有だった。6回あたりから我が家は騒然としていた。完全試合と日本一が同時に観られるかもしれない・・・

 

8回が終わったとき、不意に父が「9回は岩瀬やろ」と言った。よしのは「それはいかんやろ」と食い下がるが、父は「いや。落合なら絶対に岩瀬を出す」と言ってきかなかった。その後、9回裏のマウンドに岩瀬が現れた時の父の勝ち誇ったような顔をよしのは未だに忘れることができない。

 

父とは我が人生の指針であると思っていたよしのにとって、これは衝撃的だった。よしのは何故か(今思えば、我が父のろくでもない姿を見れば酔狂にも映るが)落合監督が父と重なった。落合監督がよしのの人生の指針となった瞬間が、この日本シリーズでの完全試合継投劇にあるのだと、今にして思うのである。

 

・・・いや、過去に縋るのはよそう。今となってはドラゴンズは12球団で最もAクラスから遠ざかっている。落合監督麾下のドラゴンズを知っているからこそ、今はその幻影にしがみついていてはいけないと分かるのだ。あの時眼中にもなかった広島東洋カープは3連覇を果たしてしまった(よしのは2016年の優勝を、なぜか箱崎お好み焼き屋で見た)。横浜は横浜DeNAベイスターズとして、新時代の球団として新たな試みを進めている。低迷するドラゴンズに思うのは、落合監督が標榜した「勝つことが最大のファンサービス」という言葉である。ナゴヤドームのビジョンを大きくすればいいのか、客の入るようなイベントを何か企画すればいいのか、よしのはそうは思わない。よしのは「強いドラゴンズ」が見たい。3年連続日本一???そんな福岡の球団を止めるのは我らがドラゴンズしかいないだろう。

 

福留?タイロン?ブランコ?森野?和田?立浪?川上?岩瀬?吉見?浅尾?

もう時代は終わったのだ。

 

大野雄大、エースになってくれ。

柳裕也、沢村賞を取ってくれ。

高橋周平、首位打者に輝いてくれ。

Dayan Viciedo、本塁打王を取ってくれ。

京田陽太ゴールデングラブを取ってくれ。

岡田俊哉、藤嶋健人、最優秀中継ぎ、セーブ王を奪ってくれ。

大島洋平首位打者を取ってくれ。

平田良介ベストナインに入ってくれ。

 

「燃えさかる男の 炎をかざして

 戦う 我らの 若き戦士たち

 嵐を呼べ 今の 君たちは竜だ

 勝利はすぐそこに 我が中日ドラゴンズ