Exile on Main St. について

 The Rolling Stones研究に昨今余念のないよしのであるが、フェイバリットを挙げるとすればこのアルバムである。理由はたくさん曲が入っているから。長距離のドライブの時などはこれをダラっとかけながら運転することも多い。

 そもそも好きなバンドのフェイバリットを一つに決めるのは一般的に相当難しく、よしのにとってもまたそうである。The Beatlesはもちろん毎日変わるし、AC/DCも好きなアルバムを1枚選べと言われれば答えに窮してしまう(もっともAC/DCの場合どのアルバムも似たような曲が入っている、というのが理由の一つかもしれないが…)

 しかしStonesの場合は結構明確に決まるというか、少なくともトップ5は(順番はともかく)よしのの中で大体固定されている気がする。

 

 基本的に彼らのディスコグラフィーで名盤とされるのは所謂「黄金期」、若き天才Mick Taylor加入前後の4枚であるBeggar's Banquet→Let It Bleed→Sticky Fingers→Exile〜となるし、この4枚だけ聴いておけばいい、といった言説もちらほら見聞きする。よしのは歴代の3人のギタリスト全員を等しく愛しているので、Taylor在籍時のみをフィーチャーした聴き方をするのは勿体ないと思ってしまうの(正確にはBeggar's Banquetの時はBrianがいるのだが、No Expectationsを除いてはこのアルバムで存在感を発揮する場面はあまりない)だが、少なくともStonesの膨大な作品の中の「どんな感じ」が好きなのかを判断する材料としてはこの4枚はうってつけだと思う。

 

 先の4枚をよしの流で大雑把に分類するとすれば、Beggar's BanquetとExile〜が「ぐちゃぐちゃ系」、Let It BleedとSticky Fingersが「すっきり系」となる。概ね彼らのディスコグラフィーはこうして分類できると思う。例えばThe Satanic Majesty's RequestやBlue & Lonesomeなどは前者、Tatoo YouやSteel Wheelsなんかは後者だと思っている。この辺の分け方は主観がだいぶ入ってしまうであろう領域なので「ふ〜ん」くらいに思っていてもらいたい。あと基本的に彼らは世間一般的にかなりの「ぐちゃぐちゃ系」バンドである。

 

 お察しのとおりよしのはどちらかといえば「ぐちゃぐちゃ系」支持派閥なのであるが、そんな深遠なStonesサウンドの典型であるExile on Main St.全曲のよしの流解説をここから展開しようと思う。これから聴いてみる人たちのライナーノーツになってほしいし、Stonesファンの皆さんにとってはご自身との印象や見解の違いを感じてほしいところである。

 

☆Side 1

1. Rocks Off

 1曲目っぽい曲である。最近でもライブの定番になっている曲だ。わかりやすくキャッチーなリフと歌なので曲調としてはこのアルバムのカラーからは若干浮いている気がしないでもないが、コーラスがどうなっているか分からないくらいぐわんぐわんとしているし、ギターも結構重なっている。ミドルの部分でも全体にうっすらフランジャーがかかっているなど仕掛けも多く、サウンド面ではこのアルバムを象徴するような曲に仕上がっていると思う。とっつきやすい曲なのではじめてのStones体験にもうってつけだと思う。

 余談だがこの曲でKeithは手に入れた(もらった)ばかりのテレキャスター、あのMicawberを使っているというデータをどこかで見た。出てくるギターは全てレギュラーチューニングだと思うので、もしかしたらこの曲ではあの5弦オープンG仕様になる前の彼の貴重なサウンドを聴けているのかもしれない。

 

2. Rip This Joint

 とにかくゴキゲンなブギー。というか本当に勢いのままに突っ走って終わるのでそれ以上の感想が持てない…というのが正直なところ。サックスのソロが入っているのがこのアルバムらしいという感じか。Side 1は切り込み隊長という感じのパートでよいと思うので、最初の2曲でツカミはバッチリ。ライブバージョンは本当にカッコいいので一聴の価値あり。

 

3. Shake Your Hips

 やっと一息つくタイミングでやってくるカヴァー。原曲はSlim Harpo。ホーンやらハープやら結構忠実に再現していると思うのだが、全体的に結構リヴァーブがかかっていたりと原曲に比べてかなり濃いめの味付けがされている印象がある。多分スネアのリムか何かだろうが、ずっと後ろでカチカチ言っているのも妙に耳に残る。リヴァーブのかかった音像とは対照的にギターはすごくソリッドでカッコいい。

 

4. Casino Boogie

 ねっとりとしている。Stonesらしさはこのねっとり感だと思う。Mickの歌い方がかなりねっとりとしているのがまずもっての印象を決めているのだろうが、ベースがダルそうに全体のリズムに絡みついているのが前面に出ているのにも気づく。まさか…と思ったらやっぱりベースもKeithによるものだそうだ。彼らの曲でベースに耳が持っていかれるときはいつもそうなのである。ここまでの4曲だけでもルーツミュージック博覧会の様相が濃い。

 

5. Tumbling Dice

 スーパー代表曲。よしのが一番好きな曲と言っても過言ではない。コーラスが分厚く入っていたりというところはファンの中でも好みが分かれるところではあろうが、よしのは案外こういうゴスペルっぽいのも好きなのだ。

 最初の勢いのある2曲もいいが、個人的にはこのくらいのテンポの曲が一番ツボなバンドなのではなかろうかと思う。この曲でKeithは完全にプレイスタイルを確立した感があるが、印象的なのはTaylorのちょっとヘロヘロとしたギターの音だったりする。お願いなのでライブのときのエンディングはもう少し短くしてください。

 

☆Side 2

1. Sweet Virginia

 Side 1とは打って変わってアコースティックサイドである。ギターの絡みとハープが心地よいカントリーソングだが、ちょっとオフ気味のMickのヴォーカルが肩の力の抜けた感じをよく表現していて個人的には気に入っている。サビのコーラスはやっぱり分厚いし、サックスのソロが入ってきたりと、彼ら流のカントリーは泥臭い要素がたっぷりとしているのだ。

 

2. Torn And Frayed

 知名度では前曲に及ばないものの隠れ名曲だとよしのは思う。隙間で入ってくるおそらくTaylorの控えめなリフも好きだが、この曲の転がっていく感じは随所に聴けるCharlieのフィルインによるものが大きいのではなかろうか。あまり起伏のない曲ではあるので特に印象的である。このバンドの最大の武器であるドライブ感の源泉がKeithとCharlieの間に確固として存在することを知らしめてくれるのは案外こういうタイプの曲だったりする。

 

3. Sweet Black Angel

 歌メロもギターのリフもキャッチーでとても覚えやすい。ギロやカウベルがギコギココンコン鳴っていてちょっと面白い。要素の多い曲が続く中ようやく出てきたあっさりとした曲で、いつもこの曲に来ると安心するものだが、シンプルな進行の中でふとした瞬間にマイナーコードで陰影がつくところが地味な聴きどころである。

 

4. Loving Cup

 いきなり出てくるピアノがフィーチャーされた曲。綺麗な曲という印象ではあるが、これがなかなかどうしてギターがガリガリ言ってたりドラムスの16ビートやフィルインイカつかったりとロックイディオム全開の曲でもある。ミドルからの♪What a beautiful buzzの部分が聴きどころだと思う。前曲に引き続きMickのヴォーカルにKeithが上でハモるのがメインの曲となっているが、この時期のKeithは本当に可愛い声をしている(今となっては…だが)。

 

☆Side 3

1. Happy 

 起承転結の「転」にあたる第3面は言わずと知れたKeith Richards最大の持ち歌からスタート。彼のギターの音でベストとされているのはStart Me Upだと思うが、個人的にはこの曲のイントロの音がNo. 1である。この時期のKeithは本当に可愛い声をしている(今となっては…だが)。ライブで正確に再現されているのを見たことがないが、間奏の尺がちょっと変わっている。

 この曲の白眉はアウトロが近づくにつれて存在感を増していくMickのヴォーカルだとも思っていて、やはり彼の声は卓越した存在感があるのだと思い知らされる。


2. Turd On The Run

 おそらくこのアルバム中最も影が薄い曲だろう。ゴツめの2曲に挟まれているのだから当然と言えば当然ではあるが。単調ながら同じリフの繰り返しでトランス状態に持っていくのは彼らの得意技だが、それが存分に出ているので小品ながら結構好きな曲ではある。ある意味ではこのアルバムのカラーを最も色濃く出している曲とも言えるかもしれない。

 余談ではあるが、Stonesの曲の中でこの曲だけは長いこと曲とタイトルを一致して認識できなかった。

 

3. Ventilator Blues

 ファンの中では評価が高い、典型的な通好みの曲だと心得ている。ここまでの引きずるようなリズムの表現はきちんと真面目にブルースに向き合ってきたバンドでないとできないのだろう。彼らはジャンキーのように見えてすごく真摯に音楽に向き合っていることがこういう曲を通じて分かるのだ。

 こういう曲だとギターのリフもさることながらCharlieのドラムスの存在がグッと前面に出てきている聴こえ方をしていて、派手さはないながらもキチッとやることはやっているのだと毎度感心する。

 

4. I Just Want To See His Face

 前曲からシームレスに始まる、ほぼヴードゥー教のマントラである(よく知らないが)。個人的にはこのアルバム中最大の問題作だ。妖しいコーラスとドコドコ言っているパーカッションがとにかく印象的である。どの楽器がどこで何をやっているか分からないだけに、珍しくBillその人のベースの摩訶不思議なフレーズがしっかり聴こえてくる。この摩訶不思議さが絶妙にマッチしているから彼も只者ではないことが明らかになる。一聴して好きになることはおそらくないが、聴けば聴くほどこういう曲も癖になっていく。

 

5. Let It Loose

 妖しさ満点の前曲から美しいソウル風バラードが始まると安心する。正直Stonesのバラードの中でも屈指の名曲だと思うのだが、なぜかファンからもそこそこスルーされている気がする(次作のComing Down Againもそう)。完全に個人の好みの話なのだが、この曲全体で聴けるレスリースピーカー風のギターの音が大好きなので、この曲は何度聴いても飽きない。Tumbling Dice同様女声コーラスが非常にいい仕事をしている。ホーンの入ってくるタイミングといいOtis Reddingとかがやっててもおかしくないくらいの分厚いバラードだ。みんなこういう曲にもっとスポットを当てよう。

 

☆Side 4

1. All Down The Line

 このアルバムの好きなところは、前の面の最後にあれだけのバラードを持ってきたのだからそこまででアルバムを締めくくってもよかった気がするのに、そんな気持ちを吹き飛ばすようなバリバリのロックチューンを裏面に持ってきているところだ。しんみりで終わらせてくれない。現在に至るまでライブの2曲目で演奏されることが多い曲。ボトルネックギターが唸っている。間奏の前に待ちきれない感じでフライングするところが好きである。Tumbling Diceなどと比較するとホーンセクションがやりたい放題やっているので異色作っぽさも感じられるが、Stonesをこれから聴き始める人に間違いなくオススメしたい、らしさあふれる一曲だ。

 

2. Shine A Light

 まだこんな曲が出てくるのか…もちろん褒め言葉として。Let It Looseも名バラードであったが、この曲はもっとリズムが立っていてどちらかというとSalt Of The EarthやYou Can't Always〜の系譜の曲である。ギターソロのところで新しい展開を差し込んでくるタイプの曲はよしのがとても好きな部類なのであるが、女声コーラスがこの曲に限ってはやりすぎ?と思う場面もある。そういうコンセプトのアルバムだし曲なので許容範囲ではあるが…とにかくMick圧巻の歌唱である。

 

3. Stop Breaking Down

 流石にあれだけの分厚い曲を持ってきたのだからこれでアルバムも終わりか…と思いきやコテコテのブルースのカヴァーである。どこまでやるつもりなのだろうか。原曲はお馴染みRobert Johnson。大上段に構えた前曲などと比べるとお手のもの、といった感じなのかレイドバックしつつもツボを押さえたカヴァーでカッコいい。これぞStonesの保守本流である、といった感じの名演である。

 アルバム全般に言えることであるが、Keithの骨太リズムギターとTaylorのちょっと頼りなさそうだけど饒舌なギターの絡みがギタリスト諸氏にとっての最大の聴きどころである。「アルバム全般」とは言ったが、中でもこの曲のギター2本の絡みはまさに正統派のカッコよさであると言ってよい。

 

4. Soul Survivor

 ルーツミュージック博覧会で満腹…といった感じのアルバムの最後を締めくくるのはそば湯的な味わいのあるこの曲となった。しんみり終わるでも激しい感じで終わるでもなく、ステディにバンドのスタイルを見せつけて終わるところに彼らの美学を感じる。5人全員(他にもゲストミュージシャンは多く参加しているが)が「これぞ!」な演奏をしているのでとても安心感がある曲だ。それ故に聴きごたえとしてはここまでの17曲に比べると随分あっさりしているが(フェードアウトでサラッと終わるしね)、アルバムを聴き終えた後の謎の爽やかさはこの曲に起因するものが大きい。

 

 …長いアルバムだった。上でも度々使った言葉だが「ルーツミュージック博覧会」である。彼らのバックグラウンドに存在する全ての要素を解き放ったようなアルバムだ。散漫なアルバムなどと評されることも多い一作だが、なかなかどうして特に終盤にかけての怒涛の流れなどは下手なトータルアルバムよりもドラマチックな展開だと思うし、全体として混沌とした彼らのイメージを痛烈に感じられるアルバムであるあことは間違いない。この長文を読んだ君がThe Rolling Stonesを大好きになってくれることを心から願っている。