よしのに何ができる?

  7/30、沙摩柯というバンドでライブをした。

 『瞑想している部屋』というタイトルのイベントだった。何度も対バンをしたことのあるgn8mykittenさんと、初めて一緒にやるヒライマサヤさんと3組で繰り広げるイベントだったが、終わってみれば本当によしのが瞑想している部屋の香りがするスペシャルな夜だったと今しみじみと感じている。

 

 当日のよしのは朝から妙に思い詰めていた(もちろん周りには気取られないように)。前日には大分でライブをし、とても暖かいムードで打ち上げに参加し、語り合い、商店街で路上ブルースシンガーを眺め、楽屋で寝かせてもらった。最高の夜だった。

 翌日、朝早く起きて一人で散歩したり、朝ごはんを食べたりした。大分は独特の自治体で、歩いていて飽きることはなかった。暑くなってきたら宿≒楽屋に入り、メジャーリーグのトレードの動きを確認していた。大好きな選手であるMax Scherzerがテキサスに行った。大補強を敢行したNYMは今年のシーズンを諦めていた。

 傍から見たら地元の人なんじゃないかと思うほど午前中は普通の日常を過ごしたが、よしのは意味も分からず悶々としていた。なんだこれ?

 大分からの道中では、想像もしていなかったタイミングでよしののトラウマのトリガーが引かれたりした。芋づる式に忘れていた嫌なことや気がかりなことを思い出したりもした。身が凍ったことを他の人に知られないよう振る舞うのは慣れているから大丈夫。それでもなんだかんだと灼熱のドライブを楽しんでいた。冷房がイカれてしまったラパンちゃんの中は沙摩柯の代謝の天才(よしの)と大食漢(モーリー)のかぐわしい香りで、さながら柔道部の部室のようだった。柔道とかやったことなかとやけど。

 

 福岡に着。リハーサルではヒライさんのギターを間違えて持ち去ってしまいそうになるなどのハプニングはあったが滞りなく終わった。

 オープンまでの間にハッピーターンじゃがりこ(サラダ味)を食べたがあんまり味がしなかった。gn8mykittenさんともヒライさんともあんまり喋らなかった。さすがのよしのも自主企画の本番前だから緊張しているのかな〜?と思ったが、そういう訳ではないことをよしのの中のリトルよしのは知っていた。

 じゃあなんだこれ?なんだこれは?

 

 1番目はgn8mykittenさんだった。

 基本的に彼のライブ中に目を離すことはできないので、真正面から黙って観ていた。多分いつも彼のライブ中のよしのは鬼の形相になっている。

 よしのに何ができる?

 と思った。多分朝からよしのはこう自問自答していた。

 よしのに何ができる?

 

 2番目はヒライさん。

 ヒライさんを初めて観たのは数ヶ月前だったけど、気づいたら本当に大好きなミュージシャンになっていた。こういうジワジワと好きになってしまう音楽は、長いこと聴き続けることができるから嬉しいのだ。例えばそれはよしのなら仲井戸麗市

 gn8mykittenさんとはまた違うけど物凄まじい歌だった。前日のサイキシミン大谷さんに続いてヒライさんにもギターを貸した。大谷さんもそうだけど、いい音で弾いてくれて嬉しかった。あのテレキャスター(蚩尤瀑布砕ちゃんという名前で呼んでいる)がよしのよりヒライさんや大谷さんのこと好きになっちゃったらどうしよう。

 よしのに何ができる?と思った。文字が明朝体から太字のゴシック体になって脳裏に浮かんだ気がした。

 よしのに何ができる?よしのに何ができる?よしのに何が…

 

 丸一日続けていた自問自答だが、結論からいくとよしのは何もできない訳ではなかった。

 ヒライさんの演奏の最後の方は会場のロフト的な荷物置きで、吾等がパワードラマー、モーリーと準備していた。出番直前、「よしのはできることをやるモードに入ってます」と言った。嘘じゃなかった。

 「よしのに何ができる?」の答えは言葉にはできていない。けどその日の沙摩柯はできることをやって、言葉にならないそれが瞑想している部屋中に沁みていく様を目の当たりにした。あと、2日間のモーリーの演奏はこれまでじゃ考えられないくらい頼りになった。

 「よしのに何ができる?」今日できていることが明日できなくなるかもしれないけれど、明日にはもっと別のことができるようになっているはずだ。それが言葉にできたとき、よしのはロックンロールから足を洗うんじゃないかな?と漠然と思っている。

 

 打ち上げの後、最後まで残ったモーリー夫妻とヒライさんは3人でタクシーに乗って帰った。今朝以来の独りだ。一日中悶々としていたことはちょっとだけクリアになっていた。

 家に帰ったら、2日間の疲れでバタンと眠るのかと思ったが、全然眠たくならなかった。週末にお世話になった人たちに、無事帰り着いたこととお礼のメッセージを送る。酒より美味い言葉たちが返ってきた。全部ひっくるめて楽しかったが、楽しいばっかりじゃなく、もっと別の気持ちが残った。ロックンロールはよしのにとってただの遊びじゃなくなっている気がしている。でも、間違いないのは「もっと別の気持ち」がよしのにとって本当に愛しいフィーリングだということだ。

 

 そして、「よしのに何ができるんだろう」と口に出してみたら涙が溢れた。

 

 『瞑想している部屋』を覗きに来てくださった皆さん、ありがとうございました。これからのよしのが、そして沙摩柯というバンドができることを楽しみにしていてください。

 

7/30 

1. ななこちゃん

2. インターネットが終るまで

3. スウィート・ホーム・ピッツバーグ

4. プロポーズ

5. ドデカミン・ジャンキー

6. 烏帽子職人のうた

7. (自主規制)

8. やってやれないことはない