無観客の大相撲

よしのの大好きなプロ野球、大相撲が無観客だ。

プロ野球は、いつもあまり気にしない打球音、選手やコーチの声かけが分かり、別の見どころも楽しめる、しかし大相撲、18時の弓取り式が終わるまで歓声がない、前相撲が延々と続いているような、異様さ。呼び出しの声、行司の声、場内アナウンス、すべてが虚しく響き渡っていた。

 

よしのの3月は多忙につき、今場所はあまり腰を据えて観ていない、しかし千秋楽は観た。場所そのものを簡単に総括すれば、上位陣が揃って不調の先場所とは打って変わって、両横綱の千秋楽相星決戦、さらには朝乃山は大関取り、唯一の大関(番付上は鶴竜が「横綱大関」を名乗るが)である貴景勝は思うように星が伸びず、しかし隆の勝なんかは躍進、と、本場所のあるべき盛り上がりがあったいい場所、だったはず、歓声が無いことを除けば。

 

異例も異例、千秋楽恒例の協会挨拶、幕内力士全員を従えた八角理事長、その挨拶に、よしのは不覚にも涙ぐむ、観客もいない中、言葉を詰まらせつつ、場所を完遂できたのは「テレビや、ラジオの前の皆様のおかげです」と言い切ってくれた、そして「全力士、全協会員を誇りに思います」と宣言した、勿論理事長が最も大変だったのは言うまでもないだろう。

 

横綱北勝海は苦労の横綱、というイメージ、千代の富士に猛稽古をつけられ、それでも耐えて綱を取った、現役時代は知らないが、未曽有の疫病に襲われた今場所をやり遂げる日本相撲協会のトップの姿に、よしのは横綱の意地を見た。彼の言葉に、全力士が胸を張っていた。

 

邪悪なものを押し込める、力士の力強い四股、五穀豊穣と世の平安をもたらす横綱土俵入り、力強い肉体の象徴たる力士、何かと批判にさらされることの多い日本相撲協会、だがよしのは、この国難の中でこそ、大相撲の持つ神通力を信じるに至った。