小学校を卒業する寸前くらい、よしのはいきなり思いついてThe Beatlesを聴き始めた。本当はそれまで色々ときっかけはあったのだが、一旦それは置いておく。
手始めに、父の部屋にあった3枚のCD『The Beatles 1962-1970』のPart. 1-3をこっそり持ち出した。強調して言っておきたいことは、「これらは赤盤、青盤ではない」ということである。赤盤の正式名称は『The Beatles 1962-1966』で、青盤は『The Beatles 1967-1970』だ。父の部屋にあったものとは若干タイトルが違っている。
しかし、不思議なことに収録曲とその順番は赤盤・青盤と一致していた。つまり父の部屋にあった謎のCDは、本来4枚(2枚組×2)のCDを3枚に編集し直したものだったのだ。どう考えても、あのチープなユニオンジャックの3枚(歌詞カードは藁半紙にタイプライターで打ったようなものだったし)よりも、赤・青の2枚の方が手に入りやすいはずだというのに、父はいったいあれをどこで手に入れたのだろうか。
さて、ギターのギの字も知らぬロー・ティーンのよしのの心を奪ったのは、初期も初期の、瑞々しい彼等のサウンドだった(ちょうどPart. 1のところ、Drive My CarまでがPart. 1である)。特にShe Loves Youが大好きだった。イントロからしてなぜか目眩がするほどだった。そして、平成生まれには既にロー・ファイに聴こえるその音、若干のエコー感が、よしのにまだ見ぬリヴァプールの街並みを、勝手に思い起こさせていた。
よしのは、動く4人が見たくなった。それは簡単なことであった。最近テーマカラーが赤になったばかりのYouTubeに、多分恐らく、当時のライブ映像が上がっているはずだった。
大好きなShe Loves Youの映像を探した。あまりにもあっさりと、簡単に見つかった。
白黒だった。当時のよしのが見たことのある白黒映像といえば、平和学習のときの戦時中の映像(よしのはこの類のビデオが苦手で、平和学習が行われる8月9日や15日前後には、怖くて夜も眠れなくなっていたりしたことがある)、或いは歴史の教科書に載っている写真、そして『ゴジラ』(1954年)、『ゴジラの逆襲』くらいなもので、歴史の中の出来事でしかなかった。Michael JacksonのSay Say SayのPVに出てくる、歌の上手いおじさんは、歴史上の人物だった(後のPaul McCartneyだ)。ギターやベースの形は、思っていたのと結構違った。そして、ギターは1本しか聴こえなかった。
あらゆる衝撃を通り越して、疑問が湧いた。ご存知の通り、The Beatlesにギターを持っているメンバーは2人いる。リズム・ギターのJohn Lennonと、リード・ギターのGeorge Harrisonだ。
なんでギターは2人いるのか?そして1本しか聴こえないのか?She Loves YouではJohnがメインの歌を歌っている。Georgeは時々コーラスをするが、基本的にはギターを弾いているだけだ。
これらの現象から、小学生のよしのは、ある結論に達した。
「John Lennonはギターが弾けないけど、歌ってる間手持ち無沙汰になるのがイヤなばかりに、弾けもしないギターを当て振りしているのだ!」
あのJohn Lennonに対して、第一印象で「こいつはギターが弾けないんじゃないか?」と思ってしまった失礼なガキは、世界中探してもよしのくらいなものだと思う。当時のよしのにはギター・ヴォーカルという概念が存在せず、例えばMick Jaggarとか、Steven Tylerみたいなああいうものを想像していただけに、思っていたのとは違ったから混乱したのだろうが、それにしてもひどい結論に達したものである。
Johnの聴こえない(弾けない?)ギターの謎は、よしのにとっての永遠のテーマになった。諸々の書籍を、インターネットを、調べて回った結果、どうもバンドには「リズム・ギター」と「リード・ギター」の2人のギタリストがいるらしい。よしのは、リズム・ギターの意味がピンとこなかった。伴奏楽器が云々と、Wikipediaなぞには書いてあるが、意味が分からなかった。つい最近まで、ギターのギの字も知らなかったよしのには、ここが限界だった。その春、小学校を卒業したよしのは、すぐさま矢上のハード・オフに行って、Photogenicのジャンク・ギターを始めて手に入れることとなる。
中学年間、よしのはThe Beatlesをたくさん聴いた。次々と叩きつけられる妙な、カッコいい曲に、よしのはずっと飽きなかった。気分はギタリストだった。
Johnのギターの謎は、よしののギターが達者になる毎に自然と氷解していった。All My Lovingのひときわ目立つアレ、I'm Happy Just To Dance With Youのアレ、そして初期The Beatlesの後ろで絶えず鳴り続けている、キラキラしたJ-160Eのサウンド、聴こえなかったギターが、よしのの耳にやっと届くようになった。よしのはThe Beatlesの聴き方を、そしてギターの弾き方をJohn Lennonに教わったのだった。
今度の12/8、John Lennonが凶弾に斃れて40年になる。ありがたいことに、いつもお世話になっているラウンジサウンズで、ジョン・レノンナイトというイベントによしのが出ることになった。本来ならば、ギターを弾けるかどうか疑ってしまった小学生のよしのなど、Johnに呪い殺されていてもおかしくなかったかもしれない。あれから10年くらい経つが、よしのは初めて彼の曲を人前で演奏することになった。彼に恥ずかしくないような演奏を、彼に学んだ弾き方でやってみる。Johnだけじゃなくて、よしのの歴史をちょっとしか知らない君や、君や、君にも聴いてほしい。あの時の罰当たりなガキは、こんなに大きくなっている。
【riverside yoshino情報!!】
11/26(木) MUSIC UNFAIR @福岡UTERO
OP/19:00 ST/19:30 前売¥1500/当日¥2000(+1d)
w/THE RICHES, BILLY BLACK
12/8(火) @福岡voodoo lounge
ラウンジサウンズ、ジョン・レノンナイト!
12/15(火) Songs Without Equal @福岡UTERO
OP/18:30 ST/19:00 前売¥1500/当日¥2000(+1d)
w/サカグチリュウノスケ, Szu, HAYATO, ツヅキ