中日ドラゴンズ 2020年シーズン総括

ドラゴンズファンでよかった。

 

2020年の中日ドラゴンズは、120試合を60勝55敗5分、勝率.522で終えた。2012年以来のAクラスということが頻繁にクローズアップされるが、個人的には貯金を持ってシーズンを終えられたことが何より嬉しかった。5割を切ったけどAクラス、では素直に喜べなかったと思う。

 

 1. 投手陣の頑張り

今年のドラゴンズは「鉄壁リレー」と「全員野球」で壁を破った。投手陣は序盤、ボール先行の投球が目立ち、試合のテンポが悪くなったところでバテて打たれる先発、慎重になりすぎて不安定な投球を繰り返すリリーフとなかなか思った通りに運ばなかった。しかし、ローテーションが崩れそうになったとき、1年遅れの救世主、松葉貴大が現れた。それまで不甲斐ない投球を続けていた投手陣に投げ方を教えているかのようなストライク主体のピッチング、シーズン通して目立った成績を残せたわけではなかったが、数ヶ月前には火の車だったローテーションで、間違いなく鈍い輝きを放っていたのが松葉だった。

これ以降のドラゴンズ先発陣は絶好調だった。大野は当たり前のように完投し、福谷は(中継ぎ時代とは別人のような)一糸乱れぬ投球でゼロを重ねる。怪我に泣きながらも柳が意地の投球を見せれば、若い勝野や清水が続く。おまけには謎の剛球外国人、ヤリエル・ロドリゲスがローテーションを支えた。先発投手陣には熾烈な競争と、それに伴った確かなレベルアップへの手応えが感じられた。

そして忘れてはいけないのがリリーフ陣だ。何といっても福→祖父江→R.マルティネスのリレー。この3人がよしの的2020年ドラゴンズのMVP投手部門である。彼等が、少なくとも37の勝利をドラゴンズにもたらした。そしてよしのが胸打たれるのは、この3人のここまでの歩みなのである。キューバの謎の若者だった日を越えて、驚くべき成長曲線を描いたライデル、「惜しい」中継ぎから完全に脱却し、頼れるセットアッパーに躍り出た祖父江、育成落ちを経験しながら、痺れるようなプレッシャーを跳ね返した福、と元々リリーフピッチャーが好きなよしのには眩しすぎるほどの勝ちパターンの投手たちであった。

とにかく、先発が長いイニングを投げて試合を作り、リードを保ったまま終盤を守り切って勝つ、長い長いBクラスに沈む期間、不思議の勝ちばかりが目立ったドラゴンズが、「勝つべくして勝つ」ことができるようになったのは、投手陣の頑張りがあってこそのものだった。

 

2. 野手陣の全員野球

「とにかく点が取れない」ドラゴンズは、悪い意味で今年も健在だった。打順をどう組み替えても、どんなに辛抱強くレギュラー陣の復調を待っても、なかなか打線の噛み合わない時期の続いた序盤戦。ある程度借金が溜まると、不調の選手に痺れを切らしたファンたちが「若手を使え~」の大合唱だった。厳しい戦いの中、批判の矢面に立たされる選手や与田監督のことを思うと、野手陣に関しては辛い時期の方が長いシーズンだった。

 与田政権が発足してからのドラゴンズは、とにかく実力主義になった。それによって、それまでなかなか結果の出なかった選手たちも1軍に定着し、レギュラーを勝ち取った選手も多くいる。しかし、レギュラー陣を固定し、毎日々々変わり映えのしないオーダーを見ると、特に勝てない時期には批判も噴出するものだ。1ファンとしてよしのにもその気持ちは分かる。負けて下を向いてばかりいる選手たち、そのムードを見ると、何か新しい風を吹かせてほしいという気持ちが湧いてくる(単純に好き嫌いで特定の選手や監督を叩いていたファンも散見された。彼らは本当にドラゴンズファンなのだろうか。)。

しかし、与田監督は決して選手を責めず、信頼し続けた。結局シーズンの最終盤まで「若手が見たい」という声が途切れることはなかったが、与田監督はただ勝つために、もがき苦しむ姿も、ひたむきに努力する姿も、一番間近で見てきたレギュラー陣を信頼して起用し続けた。

この選択が、「結果的には」吉と出た。つい数年前まで「自分が1軍に残りたい」「自分がレギュラーを獲りたい」とギラつかせていた眼が、「勝ちたい」という気持ちで輝き始めたのだ。ドラゴンズというチームで、自分は何をすればいいのか、そのために今自分がするべき仕事はなにか、そしてどうすれば実行できるか。いつしかドラゴンズは、自分のためではなくチームのために全力疾走し、ボールに飛びつき、ピッチャーに立ち向かう集団になっていた。

野手陣の課題は相変わらずだった。チャンスで打てない、ホームランが出ない。しかし、その代わり彼らは、全員血眼で1点をもぎ取ることができるようになった。夏場を過ぎると、逆転できなかった、リードを許すと明らかに覇気のなくなっていたドラゴンズの姿はなかった。自分がなんとかする、なんとかできる、という自信は、選手たちにとって、例えば長打力や選球眼よりも得難く、大切なものだったと感じる。 

個人的には、高橋周平がナゴヤドームで逆転サヨナラ3ランを打った試合で、今年のAクラスを確信した。ほんのちょっと前までは、レギュラーを掴みそうで掴めない選手だった周平が、お立ち台で「チームの勝利」を繰り返す。背番号3に、今年のドラゴンズの全てが詰まっていた。

 

3. これで終わりではない・今年得られたもの

今年のドラゴンズは、久々にAクラスに入れたことが全てのようなシーズンだった。止まっていた時計の針が動き出したような感覚に、心躍らせるファンは多い。

しかし忘れてはならないことは、ドラゴンズはまだスタート地点に立てただけだ、ということである。ペナントは、情けないことにジャイアンツに独走を許す形で決着した。 ドラゴンズは、ここから優勝、そして日本一へ、やっとその歩みを始めたばかりなのだ。

しかし、ドラゴンズを見ていればあまり心配はなさそうだ。何しろ、選手も首脳陣もスタッフも、シーズン最終盤に地獄の6連敗を経験し、乗り越えることができたのだ。自信が慢心に繋がると足元を掬われるということは、皆痛いほど分かっている。

あの1週間ほど、ドラゴンズが「どうやったら勝てるのか?」を考えた日々はなかったように思う。首脳陣は離脱者が続出した打線を最もいい形にアレンジすることに腐心していたし、選手はボロボロの身体に必死で鞭を打っていた。このままではまたしてもBクラスで終わってしまう・・・というプレッシャーの中、もがき苦しんでいた。

ファンとてそれは同じことであろう。よしの個人の話で言えば、もうこれはひたすら祈りを届けるしかない、と思っていた。そして、今日この日、もしよしのが自分に負けずに何かを成し遂げることができれば、ドラゴンズの選手たちも試合に、自らに勝てるかもしれない。もしよしのが自分に負けてしまえば、選手たちも折れてしまうかもしれない。これまでたくさんのエネルギーを届けてくれたドラゴンズに、今度はよしのがお返しをする時なんじゃないか、そう素直に思えた1週間だった。シーズン5割以上が確定した11月4日、1点差のゲームセットの瞬間のラジオ実況アナウンサーの声が聞こえる。「福が、泣き崩れています・・・」両手を合わせ祈っていたよしのの頬に、自然と涙が伝った。

ペナントレースも最終盤になって、ドラゴンズは、また一つ強くなった。それはよしのも同じことである。なんとか3位に滑り込んだだけのシーズンかもしれないが、そこに秘められたドラマはとにかく凄絶なものであった。こんなチームが、優勝できないわけがない。

 

2020年シーズン、首脳陣、選手、チームスタッフの皆さん、本当にお疲れ様でした。2021年は、優勝・日本一を目指してよしのも一緒に戦います。