セントラル・リーグのDH制導入について

 昨日、読売巨人軍からセントラル・リーグへのDH制導入の提案があり、どうも即否決されたようだ。

 

 よしのの立場を言っておくと、セ・リーグのDH制導入については明確に反対である。

 これは当然のことだが、よしのには感情論以外に反対の理由は一切ない。パ・リーグセ・リーグを実力面で圧倒している、という事実がある以上、パ・リーグの野球の方がより合理的で、より強いことは現状覆しようがないのだ。この事実を根拠にしてしまいさえすれば、「DH制の方が優れている」理由は(多少強引でも)後からいくらでも引っ張ってこれる。

 よしのの意見が少しややこしいのは、よしのがDH制そのものに反対しているのではなく、セ・リーグがDH制を導入しようとしている経緯に納得がいっていない、というところである。よしのはDH制よりも投手が打席に入る現行の制度の方が好きだ、というのは否めない。「野球は9人でやるスポーツだろう」とか「投手の打席が見られなくなるのは寂しい」とかそういった類の意見も持っている。しかし、それはあくまで個人の好みの問題であるから、それだけでDH制導入に反対することはできない。皆さんの大好きな「合理性」に欠けているからである。

 よしのが反対するのは、「改革をするにしてもまず順序がおかしい」ことと、「セ・リーグの野球がパ・リーグの真似事になってしまう」ことである。

 そもそもDH制を導入するという議論は、セ・リーグパ・リーグ交流戦日本シリーズで圧倒されていることから端を発している。つまり

パ・リーグセ・リーグより強いなぁ、理由は何だろう?

②両リーグの差はDH制の有無くらいだなぁ

③よし、セ・リーグもDHを導入すれば強くなるんじゃないか?

という至極単純なロジックで提案されたものである。DH制が育成、投手力の向上等に有利にはたらく、という「合理的」な意見は、①~③の思考プロセスの上で後付けされたものに過ぎない。

 福岡ソフトバンクホークス日本シリーズ4連覇を達成していることが、単純にリーグ格差を表しているとは考えづらい。リーグ無関係にホークスは呆れるほど強い。しかしここ数年の日本シリーズを見ていれば、打者のスイングの鋭さ、投手の投げる球、(本来セ・リーグがウリにしていたであろう)守備・走塁の緻密さ、どれを取っても完全に水をあけられていることが素人目にも分かる。パ・リーグのチームはシーズン通してこの一分の隙もないチームと渡り合わねばならない。

 そのために、パ・リーグのチームはどうすればホークスの投手を打てるのか、ホークス打線を抑えられるのか、試行錯誤をしているのだ。その結果、西武は昨季まで2年連続でホークスに打ち勝ち、今季のロッテは四球をもぎとりまくることでホークスを最後まで苦しめた。

 セ・リーグがまずやるべきはこういう取組であろう。セ・リーグ各球団は「リーグ優勝」こそがゴールだと思っており、日本シリーズはボーナスステージ感覚で臨んでいる節がある。どうすればパ・リーグの選手と対等に戦えるか、一体セ・リーグ野球は何が足りていないのか、まず腰を据えて考え、リーグ全体として「打倒パ」を掲げてレベルアップするべきなのではないだろうか。それを一概にDH制導入という「無機質な改革」で片付けようとするのはあまりに安直で、浅慮が過ぎるというものだ。

 「それでもDH制がリーグ格差の要因になっていることは間違いないから、まずは制度から変えてもいいではないか」という意見も勿論あるだろう。しかし、よしのにはどうしても、これまで人気に胡坐をかいてきたセ・リーグが、着実に離れていくパ・リーグとの実力差を無視し続け、いざ日本シリーズ交流戦で負け出すようになるとDH制の有利さを声高に唱えるようになった現状が情けなく感じられるのである。(自戒を込めて言うが)例えば自らは部屋に寝転び乍ら政治や国家に対してブツクサと批判をしているような無様さである。

 

 野球に限らずどこの世界でも、競争に勝った者に他が追随して全体が画一化されることはよくある話だ。都市開発が進んだ結果日本中の幹線道路沿いが同じような風景になったり、ファッション・ブランドのロゴがどこも似通ってきたりというのがそうであろう。日本のプロ野球は、DH制の方が強いという「勝者の論理」によって多様性を失おうとしている。一度セ・リーグがDH制を導入したら最後、今まで当たり前に見られていた投手の打席は金輪際見られなくなる。そして、セ・リーグが今までのようにパ・リーグを倒すための努力を怠り続ければ、セ・リーグを待つ未来は「劣化パ・リーグ化」である。セ・リーグの試合を観ることは、パ・リーグとの違いを楽しむことではなく、ただ単にレベルの低い野球を観るだけのことになる。日本プロ野球が2リーグ制をとっているのはセ・パそれぞれの個性を打ち出すためで、異なる個性がぶつかり合うからこそ交流戦日本シリーズが白熱するのだと思う。少なくともよしのは今までそのように楽しんできた。プロ野球全体の画一化を引き起こすDH制導入を、各球団、或いはセ・リーグぐるみの「打倒パ」への対策よりも先に行うことは、やはりどうしてもよしのには「勇み足」にしか感じられない。

 

 DH制があるリーグの方が「絶対的に」強いということはまだ確定していない。近い将来セ・リーグのどこかのチームがあっと驚くような戦略・戦術を編み出し、現在「合理的」とされているパ・リーグの野球を打ち負かすことが起こるかもしれない。それがリーグ全体に波及して、セ・リーグの方が強くなる時代が来るかもしれない。いやもし来なくても、よしのは均質化された2つのリーグより、2つの個性のせめぎ合いが見たい。DHの導入は、パ・リーグに対してあらゆる手で立ち向かい、矢尽き弓折れてからでも遅くはあるまい。